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PISTOL CONTE
小倉蛇
(Hebi OGURA)
プロフィール

The killer from 69

『殺しの烙印』と、その周辺。

 『殺しの烙印』には小説の元ネタがいくつかある。
 まずギャビン・ライアルの『深夜プラス1』。
 これは、この映画の冒頭の、謎の人物を護送するという部分の大まかな展開がこの小説に沿っている。他にも主人公の拳銃が軍用モーゼルだったり、ナンバー1のガンマンという呼び方も出てくる。
 もう一つがリチャード・スターク『悪党パーカー/人狩り』。
 主人公が単身で巨大な犯罪組織と戦うという全体の構成はこの小説に近い。直接ネタとしたらしい細部としては、主人公が妻に撃たれるが銃弾がベルトのバックルに当たって助かるという描写がそのまま。
 さらに挙げるとすればミッキー・スピレーン『ガールハンター』も。
これは前の二つほどはっきりしているわけではないが雰囲気は似ていると思う。
 捕らわれの美女への妄執みたいな感じが。あとライフルの銃身に泥を詰めると銃身が破裂して撃った人間が死ぬというアイディアも使われている。

 ところでギャビン・ライアルのもう一つの代表作に『もっとも危険なゲーム』があるが、この作品も言わば最強の男をめぐる闘争を描いていて、実はこっちの方が『殺しの烙印』に近い気もする。
 『最も危険なゲーム』の飛行機を自動車に、森林を都会に置き換え、さらに《悪党パーカー》やマイク・ハマーものからネタを拾って組み込めば、もう一つの『殺しの烙印』が構想できるのではないか、などと考えるのだが……。

 『悪党パーカー/人狩り』を映画化したものが『殺しの分け前/ポイント・ブランク』(ジョン・ブアマン)だが、これも奇妙な映画で、脳内の記憶をそのまま映像化したかのような独特の編集がなされている。この瞬間の中に別の時間が畳込まれている感覚は、アンブローズ・ビアスの短編小説「アウルクリーク橋の一事件」を基にしているのかもしれない。そういう意味では大和屋竺の監督作『荒野のダッチワイフ』に通じている。
 『荒野のダッチワイフ』は「アウルクリーク橋の一事件」の構成を基にした殺し屋映画。元ネタと考えられるもう一つのビアスの短編が「ジョン・バーダインの時計」。特定の時刻を恐れる男が結局その時刻に死ぬ話である。

 『殺しの烙印』の公開は1967年。同年、イギリスではTVドラマ『プリズナーNo.6』が製作されていた。つまりこの時期、日英両国で主人公が「ナンバー1は誰だ」と叫ぶドラマがつくられていたのだ。といっても『プリズナーNo.6』の主演パトリック・マクグーハンは宍戸錠にはまったく似ていない。では誰に似ているかというと、『殺人狂時代』の主人公仲代達矢が演じた桔梗信治と似ている。寝ぼけ眼のとぼけた表情も似てるし、タートルネックの上にスーツというファッションセンスとか。

 テレビドラマ『探偵物語』で田中陽造が脚本を書いた22話「ブルー殺人事件」は 松田優作のヴォイス・オーヴァーで始まり、ほぼ全篇探偵の一視点で展開する迷宮的な都市風景の映像でハードボイルドのお手本という感じ。『セックス・ハンター濡れた標的』の主演・沢田情児も出ている。24話「ダイヤモンド・パニック」は大和屋が宮田雪と共同で脚本を書いている。死体を盗もうとするあたりは『ルパン三世』6話「雨の午後はヤバイぜ」を思わせる。さらに不幸を呼ぶダイヤが登場し殺し屋のボスを天本英世が演じているので、まるで『殺人狂時代』(岡本喜八)のようでもある。

 大和屋が脚本に参加した『ルパン三世/ルパンvs複製人間』は、じつは脚本のほとんどは監督でもある吉川惣司が執筆したらしい。とは言え、ルパンの絞首刑の場面からはじまる構成は、やはり「アウルクリーク橋の一事件」の変奏として解釈できるのではないか。
 その吉川惣司がメインライターとして参加したアニメ『装甲騎兵ボトムズ』は、『ルパンvs複製人間』をスペースオペラに拡大したような内容である。
 2014年の『LUPIN THE VRD 次元大介の墓標』も『ルパンvs複製人間』と微妙に関連した作品だが、これはルパンらが自分の墓を見つける話なので、ビアスの短編「カルコサの住人」のようとも言える。マモーが絡むとビアス的時空になる。

 映画『暗殺者』(リチャード・ドナー)も殺し屋ナンバー1をめぐる戦いを描いている。その脚本をブライアン・ヘルゲランドと共に書いたのがウォシャウスキー兄弟で、後に『マトリックス』の監督をする。『マトリックス』は日本のアニメからの影響でも知られているが、中でも仮想現実の大胆な使い方は『メガゾーン23』を参考にしていると思われる。このOVAの原作・監督が石黒昇、この人は『新ルパン三世』の112話「五右ェ門危機一髪」や152話「次元と帽子と拳銃と」の演出を担当しているが、これらはナンバー1を目指す殺し屋が登場する話。

 サム・ペキンパーの『キラー・エリート』は、欠陥のある人物が要人護送を依頼されるという筋立てで、これも『深夜プラス1』が元ネタだと思われる。
 この作品で主人公たちを襲う敵は日本のニンジャである。
 『殺しの烙印』とメルヴィルの『サムライ』から影響を受けて作られたのがジム・ジャームッシュ『ゴースト・ドッグ』。これも日本趣味の作品で『葉隠』を愛読する黒人が主人公。
 ジョン・フランケンハイマーの『RONIN』は、作中で「忠臣蔵」について語られたりするが、雰囲気は《悪党パーカー》シリーズのような世界。

 サムライというのがアメリカから日本を見たある種の典型だとして、逆に日本から見たアメリカのイメージが利用されているのが『発狂する唇』(佐々木浩久)や『花井さちこの華麗な生涯』(女池充)。高橋洋が脚本の『発狂する唇』は『レポマン』(アレックス・コックス)風の都市伝説空間で『バイオレント・サタデー』(ペキンパー)のパロディがある。中野貴雄が脚本の『花井さちこの華麗な生涯』は『荒野のダッチワイフ』的な死者の時間で『殺しの烙印』のパロディがある。

 ペキンパーが監督した『ゲッタウエイ』は、ジム・トンプソンの原作とは結末が変えられている。原作小説では主人公カップルが最後に逃げ込んだのは人肉食を行なっている村だったというオチになる。この男女が逃避行の果てに人喰い村にたどり着くという結末は、『ウイークエンド』(ジャン=リュック・ゴダール)で実現した。ゴダールはトンプソンの『ポップ1280』の映画化を企画したこともあるので、これは偶然ではないだろう。
 『ゲッタウエイ』の男女が人喰い村へ導かれるのはエル・レイという人物を頼った結果なのだが、アニメ『カウボーイビバップ』第1話「アステロイド・ブルース」の冒頭で逃走中の男女が現われる店の名がやはり“エル・レイ”だった。

 大和屋が『殺しの烙印』以前に撮った『裏切りの季節』。主人公の殺人の暴露で終わるプロットに元ネタがあるとすれば、ポーの『告げ口心臓』と言えるのではないか。さらにポーとの関連を考えると、平和の中の戦争という主題に「赤き死の仮面」と共通性がある。あの戦場写真で覆われた部屋は、「赤き死」の侵入する色彩の宮殿なのだ。これが『機動警察パトレイバー2』(押井守)では、無数のモニターが配された都市になる。

 『裏切りの季節』は、『殺しの烙印』と同様に空港へ旅客機が到着する場面から始まる。『ルパン三世』9話「殺し屋はブルースを歌う」も同じ始まり方。何年ぶりかに帰国した男が空港を出て昔の仲間に会うと、奇妙な謀略に巻き込まれる。押井守の『紅い眼鏡』もそんな話だが、ゴダールの『アルファヴィル』やクリス・マルケルの『ラ・ジュテ』それにウォルター・ヒルの『ウォリアーズ』などを意識した作品で、『荒野のダッチワイフ』からの影響も明らか。

 『ルパン三世』の劇場版第三作は押井守が監督する予定だったが難解さのためか降板。内容は、謎の少女の依頼でルパンは《天使の化石》を盗むことになるが、その正体はナチスが開発した核爆弾でルパンが触れたため作動し東京が消滅してしまう、しかしそれは虚構で、ルパンは別人の変装だった、というようなもの。主人公が途中で消えてしまう筋立ては、大和屋の『毛の生えた拳銃』を参考にしたのかもしれない。夢オチ以降を模索すると主人公の消失というテーマが浮上する。

 押井ルパンが描こうとした〈変装の不条理〉というテーマを夢オチ的にまとめたのがブライアン・デ・パルマの『ミッション:インポッシブル』。デ・パルマと言えば『ファントム・オブ・パラダイス』のスワンがマモーの元ネタだったりするが、『ミッション:インポッシブル』のクライマックスでトンネル内を飛行するヘリコプターの描写は、『ルパンvs複製人間』を思わせる。

 殺し屋ものオムニバス映画『KILLERS』の中の押井監督作「.50 Woman」は、性別不明の殺し屋が.50口径のライフルでアニメ製作会社のプロデューサーを狙撃する話。この殺し屋は標的が現れるのを待つ間、ずっとコンビニで買ったパンとおにぎりを食べている。押井作品によく登場する立喰師の系譜に連なる人物と言えるが、食事の仕方によって個性をあらわすという手法は、『殺しの烙印』の飯の炊ける匂いがたまらなく好きという主人公に原点があるのではないか。

 押井守のOVA『天使のたまご』は天使の化石がある廃墟の街で十字架のような銃を持った少年と卵を抱いた少女が出会うという作品で、押井自身は“古典の捏造”と呼んでいる。この世界観は、十字架の立てられた荒野で『金枝篇』のエピソードが再現される『処女ゲバゲバ』(若松孝二)の影響下にあると言えるのではないか。
 『処女ゲバゲバ』のような『天使のたまご』、あるいは『天使のたまご』のような『処女ゲバゲバ』……

 『処女ゲバゲバ』と『天使のたまご』を結ぶ線の延長上に位置づけられるのが園子温の『部屋』である。主演は『毛の生えた拳銃』などで殺し屋役を演じていた麿赤児で、不動産屋役の洞口依子と都市を彷徨う。
 この『部屋』で描かれているほとんどは、殺し屋による賃貸住宅の下見なのだが、この行為は、ともに藤原審爾原作の二作『ある殺し屋』(森一生)と『拳銃は俺のパスポート』(野村孝)に繋がっている

 『拳銃は俺のパスポート』は1967年に宍戸錠が主演したもう一つの殺し屋映画。『殺しの烙印』が〈蝶〉の映画として2010年の『ラスト・ターゲット』(アントン・コービン)と共鳴しているように、『拳銃は俺のパスポート』は〈蝿〉の映画として『荒野のダッチワイフ』と響きあっている。

 『拳銃(コルト)は俺のパスポート』と言いつつこの映画で主人公が使っていた拳銃はベレッタ。そう言えば『ベレッタM92F凶弾』(原隆仁)というVシネマは、ほとんどこの映画のリメイクというべき内容だった。どちらも脚本は永原秀一が参加している。

 ボルヘスの短編小説「死とコンパス」は、事件の連続性から犯人の意図が明らかになるが、実はその解明自体が探偵を誘う罠であるという作品だが、『ウルトラセブン』8話「狙われた街」とか『ルパン三世』11話「7番目の橋が落ちるとき」もこのパターンである。もっとも特撮やアニメだと、罠といっても戦えば主人公が勝つのだが。押井守の『機動警察パトレイバー』劇場版二作では、一作目はレイバーの狂暴化が「狙われた街」と近く、二作目は橋の連続爆破で「7番目の橋が落ちるとき」と共通しているものの、〈犯罪=演出〉という視点を取り入れたことで新たな局面が開かれた。

 押井守『アヴァロン』の黄色い映像の元ネタである『エレメント・オブ・クライム』(ラース・フォン・トリアー)も「死とコンパス」型の話。この作品では、刑事による捜査の過程が精神に作用する罠であるかのように描かれていた。TVドラマ『私立探偵濱マイク』6話「名前のない森」も、探偵が家出娘を追って自己啓発セミナーの調査をするうちにいつしか精神を冒されているといった話だった。監督脚本は青山真治。同じくこの人が監督脚本のVシネ作品『我が胸に凶器あり』は、射撃世界第三位の特捜刑事ゴロウが謎の女アリスを守ってスゴ腕の殺し屋ホシと戦うという話。

 アニメ『ルパン三世(旧ルパン)』の初代演出の大隅正秋は1話「ルパンは燃えているか!?」2話「魔術師と呼ばれた男」の二話までで現場を去ったらしい。一方、宮崎駿(照樹務)が『新ルパン』で演出したのも145話「死の翼アルバトロス」155話「さらば愛しきルパンよ」の二話。この新旧それぞれの二作は、一つは、不二子のエロシーンとメカアクション(レース、空中戦)であり、もう一つはスーパーマンのような強敵が登場する話、という対応関係にある。照樹ルパン二作はどちらも武器商人を悪役にしているが『ルパン三世PART3』でこの武器商人テーマに呼応したのが鈴木精順脚本の13話「悪のり変奏曲」。

(2012.04.19/2016.08.07改)

ピストルコント1
ピストルコント2

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